「名古書紀」〜サヨナラ中華街〜

バスに乗る。愛知県に来て初めて乗るバス。なかなかの緊張感だ。基本僕はバスに乗らない。いや、乗らないようにしている。あれ以来。。

時は遡り20代。僕と友達は神奈川県は横浜・桜木町駅いた。「中華街には若人にはたまらない中華バイキングランチがあるらしい、安くて腹一杯本格中華が味わえるらしい」そんな噂を聞きつけ、早る気持ちを抑え、はるばる電車に揺られ桜木町に降りたったのだ。

「景色より飯!」歩いたり、電車に乗っていたら時間がもったいない。そう今まさに時代は「タイムイズ中華料理」なのだ。中華ランチタイムをフルで楽しむ為、移動手段は最短!桜木町発中華街行きバスというチョイス。

桜木町駅バス停から乗り込む。バスの車内は満席。通路に立っても外の景色も見づらいくらい乗っている満員のバス。

しかし、苛立つなかれ!

通勤通学の満員バスとは違うのだ。このバスの人達はみんな中華街に向かうのだ。しかもランチ直前のこの時間帯。いってみれば彼ら・彼女らは「中華ランチの同志達」。このバスは「中華街ランチバス」。

歩いても行ける中華街。バスに乗れば一飛び。1つか2つのバス停停車!多くても4つか5つのバス停停車。

中華街バス停にバスが停車。扉が開いた瞬間、我ら中華ランチ同志はバスから飛び出す。バスが小籠包だとしたらさしずめ、我らは小籠包から飛び出す熱々の肉汁。そんな妄想を頭の中で繰り広げる。

1バス停・2バス停・3バス停・4バス停・5バス停。。。

しかしなかなか着かない。中華街遠い。。一向に中華街に着かないどころか、車内に「中華街」の「中」の音すら聞こえない。いつかしか「中華街」というアナウンスの音が流れることを祈る自分がいた。

バスに揺られること1時間弱。バスは街を抜けて郊外へ。

一緒に乗った乗客はバス停に着く度に、1人また1人と降りていき、気がつけばバスには運転手と僕と友達の3人旅。僕達にもいつか聞こえると信じていた「中華街」。いつかは言ってくれると祈っていた「中華街」。いつか着くと信じていた「中華街」

車内アナウンス。

「次は終点バスセンターです。」

降車ボタンを押すことなくバスは止まり、扉が開く。中華街を目指したバス旅の強制終了。僕たちの中華街が幻の街となった時。我らの祈りは届かなかった。。

サヨナラバス。

サヨナラ中華ランチ同志っぽかった人達。

サヨナラ僕たちの運転手さん。

サヨナラ桜木町。

サヨナラ中華街。

バスを降りると、目の前に広がるのは都会の喧騒を忘れる壮大な景色。緑のフェンスで囲まれたアスファルトの敷地にはバスが数台。緑のフェンスの先は大きな建物なく、広がる素晴らしい見晴らし。桜木町に戻るバス乗り場を探して時刻表を見ると。。バスが来るのは約1時間後。バスに乗り桜木町経由中華街を目指しても、もうランチタイムは終わっている。

自動販売機で買ったホットコーヒーが空きっ腹に効いたのが僕の最後の記憶。

なにを基準にそのバスに乗ったのか?その日結局、中華街に行ったのか?なにを食べたのか?なにをしたのか?あの日のあの後の記憶は定かではない。思い出そうとしても浮かんでくるのは緑のフェンスで囲まれたバスセンターだけ。

時は戻り、現代。

時代は進化して色々なことをネットで調べられるようになった。名古屋に住みもう9年。行ったことがないところは多けれど、名古屋は知らない街ではない。そして何よりあの頃より歳を重ね、大人になった。

降車ボタンを押す。バスの扉が開く。目的地に着いた。

でも、やっぱりバスは怖いと思う自分がいる。車内でずっと携帯でオンラインバス停停車とGoogleマップを交互に見てたもの。