【笑う魔法】Episode 10 りょーちん編「恋の魔法」

魔法・・・

絶対に憧れるよね、魔法。
「朝起きたら、魔法が使えるようになってるんじゃね」なんて、誰しもが思ったり。
「ちちんぷいぷい」って唱えたら、壊れた物が直っていたなんて思ったり。
いろんなことを叶えることができるんじゃないかって。

そう。僕も願った、あの日。
「魔法が起きたら。僕が飛んでいけたら」
何度何度繰り返し思ったことだろう・・・

僕が小学一年生になってすぐ、好きな女の子ができました。
その子は、とても髪の毛が長くて、目がクリクリしていて、僕より身長はちょっと高めの素敵な女の子でした。

よく一緒の班になったのを覚えています。
席が隣になるのがただただ嬉しくて、一緒に横に並ぶのだけでもなんだか楽しくて。
あ、学級委員も一緒にやったかも。
とにかく、毎日毎日学校へ通うのがとても幸せな日々でした。

そんな月日もあっという間に2年半経ち・・・

3年生の一学期が終わろうとする頃、その子が転校するという話になりました。
僕は、「どうして、どうして」って。
自分の身に降り掛かった、初めてのどうしようもない思いに、ただ胸が締め付けられる思いでした。
ドラマであるかのように、漫画であるかのようなことが、自分の身にほんとに起こったのです。
「好きな女の子が、転校してしまう」
僕はその事実を受け止められないでいました。

そして、転校の当日。
ただ彼女に対して、この起きている現実に対して、明るく振る舞っていたのを覚えています。
「僕はなんともないよ」
彼女への強がりだったのかもしれないし、僕自身への強がりだったのかもしれません。

そして、彼女を見送って、自分のうちに帰ってきて、二階の自分の部屋へ飛んでいって、布団に包まった時に、その反動はやってきました。
あんな感情で泣いたのは初めてのことだったのではないかな。
ただただ涙があふれて、身体もしゃくりをあげて止まらない。
「どうして、どうして」
思いだけが溢れて、自分を制御できない。

もしもその時に魔法が使えたら・・・

「彼女の転校を止めさせる」
「彼女のところへ飛んでいく」

いろんなことを考えついて、実行したことでしょう。

でも、現実は布団の中。
暮れていく陽に気づくことなく、暗い布団の中で、母親が気づくまで泣いていました。

ただ、彼女とのことは、ここで終わりにならなかったのです。
二人を結びつけようとしてくれる、キューピットさんがいたからなのか、それとも魔法使いさんなのか。

何度も文通を彼女と続けることになりました。
時に、ちょっと背が大きくなった彼女の写真が入っていたり。
じゃあ僕もと、お気に入りの写真をアルバムから見つけて送ったり。

それは、中学になってからもペースはだいぶ落ちましたが続き、大学の入学が決まったとお知らせが来た時に終わりました。

実際の彼女には、3年生の一学期の終わりから会っていません。

会いたいなとは思いますが、会えないでいいと思っています。
ほんとはそこで終わるはずだった「小さな淡い恋」が、誰かさんの力で延長してもらえた。
布団を濡らした想いが、伝わったのかもしれません。
だから、その想い出でいいんだと思います。

そして、今。

僕の息子の5歳のこうたろうが言います。
「好きな女の子がいるんだ」って。
僕はその話を聞くと、なんだかこそばゆくなります(笑)
その話す顔は、初々しさでいっぱいで、照れて、でも真っすぐで。

だから聞いてあげます。
「どんな子なの?」

「恋の魔法」
純な想いが、届いたのかもしれません。


【ライブ情報詳細】:2014/04/25(fri) CLASKA Presents LIVE 「笑う魔法」


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