幽体離脱がしたかった。
夜、身体を抜け出して、空を飛んで、好きなあの子の家に行きたかった。
「幽体離脱」という現象を知ったのは、テレビのミステリー特番だったか、本だったか、両方だったか。
小学生だった僕は、オカルト雑誌「ムー」が好きだった。
わくわくしながらページをめくると、世の中にたくさんの不思議が溢れていることを知った。
超能力を持っている人もいれば(スプーンを曲げる!)、この世とあの世を行き来したり霊と話しができる人がいた(事件を解決することもあれば、騙されたと訴えられることも)。ノストラダムスの予言は何度も特集され、過去〜現在〜未来というような時間の概念と因果関係と不確定要素を学ぶ機会になった(パラレルワールドは便利な言葉だということも知った)。
宇宙人にさらわれた人の体験談は面白かった。「どんな宇宙人だったんですか?」と聞かれて描いたスケッチが、何故かみんな下手だった。
宇宙人と地球の政府要人との秘密裏の取引があったことをムー独自のルートで情報を入手〜暴露〜告発することもあり、ただのオカルト雑誌にとどまらない、日本〜地球〜宇宙規模の情報を取り扱っているのだと子ども心にビンビンくる、なんともコアでマニアックな雑誌だった。
また、誌面の中には「これを身につけると、運気が上昇、馬券が当たる!女にもてる!全てが想い通りになる!」と謳う広告があって、それはブレスレットだったり、財布に入れるマスコットだったり、お札だったと各種あって、バリエーションの豊富さに感心したのも懐かしい。
僕の興味はその時々で変わっていき、ある時はUFOを見たくて(というか、宇宙人にさらわれたくて)家の前の車道に寝転がって夜空を眺めていた。またある時は、スプーン曲げにチャレンジするもぜんぜん曲がらず、「超」という漢字の意味を身を持って知った。普通の能力を超えなきゃいけないのだ。
不思議なことが大好きで、なんで自分の身にはそんな不思議体験が起こらないんだろう?そっちのほうが不思議だったある時、ひとつの記事に目が止まった。
「あなたにも出来る幽体離脱」
よく聞く幽体離脱体験は、
「事故や病気で意識不明の重体になってしまった時、気がつくと、ベッドに寝ている自分を見下ろしていたんだ。白衣を着た医者や看護師が自分の周りを行き来していて、自分の鼻と口には透明のチューブがつながっていた。なんで自分を見下ろしているんだろうと思った…」
大体こんな感じではじまる。
事故や病気で重体にならないと体験できない幽体離脱が「自分で出来る」と書いてあるのを見つけて、スプーン曲げはできなかったけど、幽体離脱は出来るかもしれないと思った。こっちのほうが対スプーンじゃない分、勝ち目があるかもしれない。なんの勝負なのかは分からない。
その記事は、幽体離脱の方法を丁寧に段階を追って説明していた。まずはじめは、
STEP1「布団で仰向けになってリラックスする」これは簡単だ。布団に入ってリラックスすればいいだけ。僕は身体の力を抜いた。
STEP2「いつもよりも少しゆっくり呼吸する」これも簡単だ。呼吸をゆっくりにすることで、リラックス効果をあげるのだろう。
STEP3「リラックスしたまま仰向けになっていると、自分の身体の感覚がぼんやりとしてくる(身体の輪郭が曖昧になる)ので、そうなるまで、リラックスした呼吸を続ける」このステップは、最初の頃はよくわからなかった。「自分の身体の感覚がぼんやりとしてくる」がどういうことなのか意識したことがなかったのだ。とはいえ、何度かやっているうちに分かってくるもので、身体の力を抜いて脱力していると(身動きせず、ただ横になっていると)自分の身体が自分のものじゃないように感じてくるのだ。ホントに。
そして、いよいよ最重要ポイント。
STEP4「自分の身体の感覚がなくなったら、すーっと上体を起こす。すると、身体は寝たまま幽体だけが身体から離れる。そうすればしめたもの。ゆっくりと幽体を起こすと、身体から離脱することができる」とある。
早速試してみた。
が、身体ごと上体が起きてしまった。
幽体は離脱できなかった。
すると、STEP3に戻ならければならない。
STEP3「リラックスしたまま仰向けになっていると、自分の身体の感覚がぼんやりとしてくる(身体の輪郭が曖昧になる)ので、そうなるまで、リラックスした呼吸を続ける」
仰向けに戻り、ゆっくりと呼吸をして、再度「自分の身体の感覚がぼんやりする」まで待つ。
筋肉を弛緩させる必要があるのである程度の時間がかかる。
予想以上に長い。
…………。
…………。
「身体がぼんやり」してきたので、STEP4「すーっと上体を起こす」も、また身体ごと上体が起きてしまった。
またやり直しだ。
また仰向けになり、ゆっくりと呼吸をして、「自分の身体の感覚がぼんやりする」まで待つ。
…………。
…………。
…………。
…………zzz。
目が覚めると、朝だった。
気持ちのいい目覚めだった。
その後、何度も「幽体離脱」にチャレンジするも、必ず途中で寝てしまうようになった。
STEP3の「身体の輪郭がぼんやりする」まで待っていると、ゆっくりとした呼吸が、おだやかな寝息になってしまうようになった。
幽体離脱はできなかったが、いつの間にか安眠熟睡する方法を身につけていた。
これまで「よく寝れない」ということはほとんどないし、寝付きもよくて、結構どこでも寝れる。
初めての旅館・ホテルでもよく寝れる。枕が変わっても特に関係ない(っていうか、基本枕は使わない)。
あまりの寝付きの良さに「のび太みたいだね」と言われたこともある。自分でもそう思う。
安眠には脱力がいいようだ。身体の筋肉の緊張をほぐし、ただ呼吸を繰り返す。15分もすればあっという間に夢の世界へ誘われる。
「寝れない」「寝付きが悪い」「目覚めが良くない」というあなた、ぜひこの「あなたにも出来る幽体離脱」を試して下さい。睡眠の質が「魔法」のように改善されるかもしれません。
(なお、本当に幽体離脱しちゃった!場合には責任を負えませんので、自己責任でお試し下さい)
【ライブ情報詳細】:2014/04/25(fri) CLASKA Presents LIVE 「笑う魔法」