カタヨセのエッセー

大船駅で出発待ちしている電車に乗っていると、窓の向こうにエスカレーターを小走りでおりてくる若いお坊さんが見えた。師走だなあと思っているとその少し後ろから女子学生が同じように小走りでおりてきた。お坊さんは、僕が座っている座席のすぐ隣に乗り込んできて、手すりを掴んで立ち止まった。

若いお坊さんの足音が「カラン、カラン」と気持ち良い音だったので、ふと、足元へ目をやると、よく履きこまれた下駄を履いていた。寒くないのかな?と思って目をあげると、さっき後ろを小走りしていた女子学生が、若いお坊さんのところにすーっとやって来た。

お坊さんは彼女へ背中を向けている格好だったのだけれど、女子学生はその背中へ「これ落としましたよ」と声をかけた。美しく澄んだ声には緊張感がちょっとだけ混じっているように聞こえた。お坊さんはすぐに振り返った。女子学生は両掌に大切そうに持っていた革の長財布をお坊さんへ差し出した。

「ああ、ありがとうございます」と言って若いお坊さんは財布を受け取った。彼はまだ幼さが残る顔をしていた。10代後半〜20代前半くらいに見えた。

お坊さんが財布を受け取って頭を下げる間、女子学生はずっと笑顔だった。恐らく中学生くらいだろう。純粋さと慈愛に満ちた笑顔をしていた。

財布を渡した女子学生は笑顔のまま会釈をしてそのまま電車から降りて行き、若いお坊さんは、後ろ姿を見送っていた。

時間にしたら2、3秒ほどの短い時間だったけれど、とてもいい瞬間に遭遇した。女の子は、お坊さんが落とした財布を届けようとエレスカレーターを駆け下りてきたのだ。

電車は出発し、気持ちよく晴れた空には白い雲が浮かび、次の北鎌倉駅で若いお坊さんは降りて行った。

恋が始まる出会いのシーンにも見えたなと思いながら、女子学生の笑顔が慈愛に満ちていたこともあり、もしかしたら修行中のお坊さんを助けるために「神様・仏様・お地蔵様」が現れたのかも?と思った。

そう思った原因はここ数日やっていた「たんけんアリオス」のせいだなと思い、ひとりで笑ってしまった。

濃い時間を過ごして日常に戻ってきたんだなあと改めて。

第24回 たんけんアリオス|構成・演出:カタヨセヒロシ、出演:ロクディム(6-dim+)